タレントマネジメントとは?基本の導入5STEP・事例をご紹介

母集団形成

タレントマネジメントは、次世代の経営人材の選抜・育成のための機能として大手企業では既に広く取り入れられています。

エンゲージメントが重視される時代になり、今後は、中間層を対象としたものや自律的なキャリア形成を支援するための施策に広がっていくことが期待されます。タレントマネジメントの基本的な考え方や目的と効果について事例を加えて解説していきます。

目次

タレントマネジメントの基本をチェック
タレントマネジメントでできること
タレントマネジメントの実施方法
タレントマネジメントの導入事例
まとめ

タレントマネジメントの基本をチェック

Successful smiling young male job applicant holding a blue file with his curriculum vitae posing in front of his new work colleagues or business team

タレントマネジメントは、大手戦略系コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニーが提唱した「War for Talent」(人材育成競争)という戦略的な人的資源管理の考え方に端を発しています。

その内容は、経営戦略におけるマネジメント人材の重要性と人材育成競争が企業の成長に大きな影響を与えることを検証したものです。個々の人材それぞれが持つ能力・資質・適性の管理を精緻化することで、企業の組織戦略と人材戦略の整合性を高めていくことを目的としています。

タレントマネジメントにおける「タレント」は有能な人材のことを指し、「マネジメント」は採用・定着・育成・配置・評価など人事管理全般を指しています。

戦略的な人材マネジメント全般を指す

全米人材マネジメント協会(SHRM)、米国人材開発機構(ASTD)、英国人事協会(CIPD)、などの人材に関する専門機関がタレントマネジメントを定義しています。

それぞれの要点は以下のようなものです。

・全米人材マネジメント協会(SHRM)
「企業が継続的に発展するための、優秀な人材の維持、能力開発を統合的、戦略的に進める取り組みやシステムデザインの導入」

・米国人材開発機構(ASTD)
「企業風土、エンゲージメント、能力開発、人材補強/支援強化の4つの視点から組織に成果をもたらす、人的資本を最適化する包括的な取り組み」

・英国人事協会(CIPD)
「組織にとって価値の高い人材の獲得・一体化・育成・エンゲージメント・定着・配置に関する体系的な取り組み」

いずれも抽象的な表現ですが、企業の目標達成や成果の実現が目的であること、人的資源管理の包括的・統合的な取り組みであるという点が共通しています。

実際に、企業がタレントマネジメントとして行っている取り組みの内容に一律のものはなく、従来型の人事管理を新たな視点から見直す形でさまざまな施策が取られています。

タレントマネジメントの目的は「経営目標の達成」

これまで、人材マネジメントの巧拙と企業の業績に与える影響の結びつきが不明確だったことが、タレントマネジメントが取り上げられるようになった要因としてあげられます。

従来の人材マネジメントは、人材の採用・定着・育成・配置・評価のためのそれぞれの施策が個別に進められ、経営戦略や事業計画と関連付けられることが少なかったといえます。

それに対し、「経営目標の達成」のための人事戦略として、それぞれの組織の人材マネジメントを再定義することを求めるのがタレントマネジメントの本質です。

なぜ今タレントマネジメントが注目されているのか

国内においては、少子高齢化による社会情勢の変化、技術革新とグローバル化の進展が、企業の競争力を維持するための人材戦略に影響しています。

少子高齢化と経済成長の鈍化が、人材不足の深刻化を招くとともに日本企業が伝統的な雇用形態を維持することを難しくしており、それに伴う労働者側の価値観の変化が人材の流動化を促し、企業は変化する労働市場への対応を迫られている状況にあります。

また、技術革新の速いスピードと地域と規模が拡大していくグローバル化の進展は競争環境の移り変わりを早め、企業の人材には高度な専門性と多様性が同時に求められるようになってきています。

これらの時代の変化への対応策として人材戦略の持つ重要性が再認識され、その解決策としてタレントマネジメントが多くの企業に注目されています。

技術革新という意味では、ビッグデータとAI技術などのテクノロジーが人事領域に応用されるようになってきたこともタレントマネジメントの普及に大きな役割を果たしています。

タレントマネジメントでできること

タレントマネジメントは人事部門の管理領域すべてに及びますが、それぞれの企業によってタレントマネジメントの主な活用目的は異なります

パーソル総合研究所の「大手企業タレントマネジメントに関する実態調査(2020年)」※によると、大手企業のタレントマネジメントの実際の取り組みとして以下のものが上位にあげられています。

● 次世代経営人材の発掘・育成
● 戦略的ポジション人材の発掘・育成
● 中間層人材の適性配置

※パーソル総合研究所「大手企業のタレントマネジメントに関する実態調査(2020)」

次世代経営人材の発掘・育成

サクセションプランに繋がるハイポテンシャル人材の育成がタレントマネジメントのテーマとして最も多くあげられています。次世代、次々世代の経営層育成のための取り組みを行うものです。

戦略的ポジション人材の発掘・育成

事業構造の改革・再編を迫られる企業が増加していくなかで、優先度が高まっているタレントマネジメントのテーマです。

新規事業・事業企画・DXなどを担うポジションを戦略ポジションとして位置づけ、それを担う人材の確保を行うものです。内部からの育成を図るケースとキャリア人材の採用で対応するケースに分かれています。

新規分野の研究開発やDXなど自社のタレントでは充足できない人材がキャリア採用として外部から調達されます。

それ以外に財務、法務、人事などの高度専門人材が必要な職務を戦略ポジションとしてあげる企業が見られます。

中間層人材の適性配置

中間層人材の配置と育成は、従来型のジョブローテーションを行いながらゼネラリスト・マネージャーの育成を図る取り組みと専門分野に特化した人材を育成する方向性があります。

適正配置のためのアプローチは、会社側が行うマッチングと従業員側のニーズを異動に反映させる施策の2種類にわけられます。

社内公募などにより従業員の希望を活かす形で適材適所を図る取り組みが増加傾向にあり、エンゲージメントの向上や自律型のキャリア形成を促進するための方法として取り入れられています。

タレントマネジメントの実施方法

タレントマネジメントの導入は、タレントとポジションを定義し、配置・育成・評価の仕組みのなかでPDCAを回しながら候補者を人材プールに確保していきます。

STEP1:実施する目的と課題を明確化させる

タレントマネジメントより実現する人材戦略の目的を明確にするために、経営戦略がタレントマネジメントに求めるテーマや、現状の人事領域に関わる課題を明らかにします。

STEP2:タレント人材を選定する

タレント人材を選定するにあたり、タレントマネジメントの目的に沿った、タレント人材の定義、評価基準、職務やポジションに求められる能力や資質、条件などを明確にします。

タレントマネジメントは人材データの一元化、可視化を図るための人事データベース管理システムを活用することが一般的であり、採用・配置・評価・育成を繰り返しながらデータベースに人材情報を蓄積し、充実させていきます。

STEP3:タレント人材の配置・育成計画を立てる

現在の需給・ミスマッチの把握と将来の人材ニーズの予測を踏まえた上で、中長期的な目標に沿った人材の配置・育成計画を立てます。

後継者候補や幹部人材など上位のタレント人材については、重要ポジションの経験やメンターをつけるなど、一人ひとりへの個別具体的な育成計画が必要になります。

中間層人材や全社員を対象とする群別管理層に対する育成計画では、それぞれの人材プールに必要な育成メニューを実施します。

STEP4:計画に沿って配置・育成を実行する

計画に沿った育成施策を実行します。

STEP5:実行後には定期的に振り返りを行う

ジョブローテーションや研修など実施していくなかで、実施状況をモニタリングする仕組みと実施の成果に対する客観的なアセスメントの方法を検討します。

タレントマネジメントの導入事例

大手企業のタレントマネジメント導入事例を3つご紹介します。

事例1:アサヒビール株式会社

経営人材の育成策として以下の人材育成プログラムを実施

● 「アサヒスーパー塾・経営者養成塾」(役員候補ビジネスリーダー養成)
● 「Asahi Executive Institute」(直近の役員候補を対象とする社内大学)
● 「Global Challenge Program」(グローバル人材育成)
● 「Asahi Next Leaders Program」(次世代リーダー育成)
● 「Asahi Executive Leaders Program」(執行役員候補を対象に経営トップ自らが指導)
● 「Asahi Challenge Agent Program」(次世代、次々世代経営者人材育成、30代前後の若手対象のBasicと35~45歳の中堅を対象としたAdvanceの2コース、社員の応募から選抜)

タレントマネジメント推進のための人材データ収集は以下の方法で実施

● 「キャリアデザインシート」
(年1回異動希望先、職種、勤務地を自己申告、中長期のキャリア形成を上司と面談)
● 「ヒアリングシート」
(部長・支店長に部課全員の情報について人事担当者がヒアリングを実施)

本人が強く異動を希望する場合は、キャリアデザインシートを人事部に直送できる「ダイレクトアピール」を実施。本人の自律的キャリア形成を支援する制度として活用。

人材データの蓄積が進み外部のデータサイエンティストと共同でピープルアナリティクスを実施。職種別のハイパフォーマーモデルを構築。

事例2:伊藤忠商事株式会社

● 2007年より世界視点での人材戦略を推進
● 2010年リーダーの行動要件を整備するとともにグローバルの組織長人材をデータベース化
● 優秀人材の選別→キャリア開発計画(CDP)→育成・活用・登用→評価のサイクルで実施するタレントマネジメントプロセスの仕組みを構築
● 新入社員・若手・中堅・役職別、グループ社員・ナショナルスタッフ別に必須研修、選抜研修、選択研修プログラムを多数展開

タレントマネジメントにおける人材開発は以下を実施

● ブロック人材開発プログラム
● 外部MBA
● グローバル研修
● 優秀人材開発プログラム

事例3:日産自動車株式会社

採用・発掘・育成を目的とする以下の機能を持つタレントマネジメント施策を実施。

● NAC(Nomination Advisory Council)
次世代リーダー発掘と育成プラン作成、グローバル主要ポストに対するサクセッションプラン作成を行う委員会の設置。
● グローバルで次世代リーダー候補を発掘・育成計画作成を提案する役割を担うキャリアコーチが人材の選抜・育成に大きく関わる
● キーポストの後継者計画
● ハイポテンシャル人材の選抜
● ハイポテンシャル人材育成ロードマップ作成
● グローバル研修

タレントマネジメントは以下のプロセスを回す

● 人選(コンピテンシーに基づく人材発掘)
● アセスメント(ポテンシャルの見極めと強み・課題の明確化
● 育成計画(トップマネジメントを巻き込む論議)
● フォロースルー(アサインメント・育成実施の効果を確認

ビジネスリーダー候補の選抜・育成は以下のステップで実施

● 入社後3年~ → ビジネスリーダー候補の発掘
グローバル環境でストレッチアサインメント※の機会を提供
● 入社5~7年 → ビジネスリーダー候補の選抜・育成
ビジネスリーダーにアサインするための育成プログラムとして部門間ローテーションと海外派遣などを実施
● 40歳代 → ビジネスリーダー・ポストに着任できる人材の育成

※達成の難しい役職やポストの経験

まとめ

従来型の人事制度における経営人材へのキャリアパスは、長期間にわたるジョブローテーションを経て、昇進というトーナメントを重層的に勝ち上がるというものでした。

それに対し、タレントマネジメントへの取り組みは、重要ポジションへのアサインに向けた早い段階からの選抜・育成が可能にします。

タレントマネジメントは既に大手企業では成果をあげている取り組みであり、今後、幅広く活用されていくことが期待されます。

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