米心理学者であるローゼンタールが提唱した心理的効果、ピグマリオン効果は学術的には批判的な意見が多いものの、教育やビジネスの現場で広く取り入れられ活用されています。
期待することがポジティブな効果を生むという点で受け入れられやすく、経験的にも納得性の高い心理的効果であることがその一因でしょう。
ピグマリオン効果について、その由来となった実験や効果的に活用するための考え方を解説します。
ピグマリオン効果とは?
ピグマリオン効果の実験例
ピグマリオン効果と似た用語との違いを解説
ピグマリオン効果が発揮される方法
まとめ
ビグマリオン効果は「教師期待効果」「ローゼンタール効果」などとも呼ばれる教育心理学における心理的効果のことです。
他者からの高い期待がパフォーマンス向上につながるという心理的効果であり、現在では、教育の場以外にもスポーツや人材開発の現場で研修やコーチングの方法論として活用されている理論です。
教える側が教えられる側の成果に期待を持つことは、そうでない場合に比べて教える側の態度に変化をもたらします。それが教えられる側の積極性やモチベーションに影響した結果、期待を持たずに指導した場合と比べて高いパフォーマンスを得られるという理由付けがなされています。
教えられる側は、期待されることで「自己効力感」が高まり、具体的な道筋や結果を示されることで「結果期待」が生まれます。出来るという自信と達成したときの報酬効果が、強いモチベーションを形成します。
ピグマリオンはギリシャ神話に登場する王の名前であり、その物語からピグマリオン効果の名前が取られたといわれています。物語は以下のようなものです。
『ピグマリオンは現実の女性に失望し、自らの理想の女性を彫刻に作り上げガラテアと名付けました。彫刻に服を着せ、食事を用意するなど、生きている女性と同じように大切に扱うにつれてピグマリオンはガラテアに恋をしてしまいます。
ピグマリオンはガラテアに恋い焦がれる想いが募り、彫刻から一時も離れられない状態となってしまいました。憔悴し衰弱したピグマリオンを見かねた愛の女神アフロディーテは、ピグマリオンの願いを叶えガラテアに生命を与えたのでした。ピグマリオンは人間に変わったガラテアを妻とし幸せに暮らしました。』
心からの想いや期待が相手を変えてしまうほどの影響を及ぼし期待どおりの結果となるというところが名前の由来となっています。
米心理学者のローゼンタールが行った実験は以下のようなものです。
1. 小学校の全校生徒に偽装のIQテストを実施
2. 教師に対してIQテストを受けた生徒のなかから20%にあたる人数の生徒をランダムに選ぶ
3. 教師に対し、ランダムに選んだ生徒の名簿を成績優秀者になる可能性のある生徒の名簿として提示
4. 一定期間経過後、成績優秀者になることが期待されるとした生徒と、その他の生徒の成績の変化を検証
5. 1~2年生について、成績優秀者になることが期待されるとしてランダムに選んだ20%の生徒の成績の伸びが他の生徒よりも大きかった
しかし、この実験には多くの批判があり、実験の質や再現性の点で多くの疑問が投げかけられています。
「期待」が明確に定義されていないという点、教える側の主観である期待も教えられる側の態度に影響されること、この実験で成績の伸びが実証されたのが1~2年生の社会的影響を受けやすい幼い年齢層のみであったことなどが指摘されている点です。
ピグマリオン効果はポジティブな効果をもたらしますが、反対に、ネガティブな効果をあらわすゴーレム効果、ポジティブにもネガティブにも働くハロー効果、また、注目や関心がポジティブな効果をもたらすホーソン効果など、感情や認知への影響に関連する心理的効果として同様なものをいくつかご紹介します。
ピグマリオン効果と逆の心理的効果をゴーレム効果といい、教える側が教えられる側に否定的な評価を与えている場合は、教えられる側のパフォーマンスはマイナス方向に働いてしまうことを指すものです。
ゴーレム効果には、否定的な評価を受けた本人の能力が低下する絶対的ゴーレム効果と能力があっても否定的な評価を受けた集団に属することで能力が発揮できなくなってしまう相対的ゴーレム効果の2種類があります。
ハロー効果は社会心理学で用いられるバイアスの一つであり、「光背効果」「後光効果」といわれます。
評価に際し、全体の印象が目立つ要素に引きずられてしまい、他の評価要素を軽視してしまうことを指しています。ハロー効果にも、ポジティブハロー効果とネガティブハロー効果の2種類があり、良い面に引きずられる場合と悪い面に引きずられる場合があります。
ピグマリオン効果のプラスの行動に影響を及ぼす要素は「期待」ですが、「関心や注目」もプラスの行動を促す要因として働きます。関心・注目されることでパフォーマンスが高まることがホーソン効果です。
工場労働者の生産性向上に影響を与える物理的要因を分析する実験が行われた際に、物理的要因は労働者の生産性には影響せず、周囲の労働者や上司からの関心や注目が最もプラスの効果をもたらしたという実験結果から生まれた言葉です。
人材育成の観点で、ピグマリオン効果は「褒めて育てる」という意味合いとは異なります。褒める対象はプロセスや結果であり、期待するのは将来の到達地点です。将来に対してのビジョンを具体的に示し、それに向けて何をすべきかの指針を与えることが必要です。
権限移譲し裁量を与えることは、部下にとって信頼と期待を表すメッセージにほかなりません。また、権限移譲や裁量を与えることは自主性を尊重するということでもあります。
裁量権は自己効力感を助長しワークエンゲージメントを高める効果をもたらします。部下は期待されていると感じることでモチベーションが高まり、期待に応えるための積極的な努力が促されます。
褒める・叱るといった言葉によるコミュニケーションのなかでも、部下に対して期待感を与えることがポイントです。
褒める場合は、プロセスや結果を評価する言葉に加えて、将来の結果に対する期待も含めることがピグマリオン効果を与えるのに有効でしょう。
叱る場合は、期待されていないと感じられる言葉を使わないことです。「仕事ができない」「やる気がない」といった決めつけの言葉は、ゴーレム効果が働くことにつながり部下のパフォーマンスをマイナス方向に誘導してしまいます。問題点、改善点を考えるきっかけとなる前向きな言葉を使うようにすることです。
ピグマリオン効果を活用する場合、期待をかけ続けることが重要です。期待される目標に達するまでの成長曲線は人によって異なります。必要なタイミングに応じて、期待の中身と具体的な方法を示すことが部下の成長を助けます。
さらに段階的な目標を設定することが長期的な成長を促すことにつながり、ステップアップを続けることで、大きな成果にたどり着く道筋を描くことができます。
心理的効果やバイアスはさまざまなものがあり、近年、行動経済学の分野からビジネスの場面に応用されるものが盛んに紹介されています。本来、教育心理学や社会心理学といった学術分野で生まれた用語であり、これらの意味するところを知った上で現場に活かしていくことが必要です。
記事のなかで述べたとおり、ピグマリオン効果は「褒めて育てる」という意味ではなく、将来の時間軸のなかで期待を示すということです。ビジネスの現場で活かされるピグマリオン効果を意識してみてはいかがでしょうか。
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