ジョブローテーションは定期人事異動のなかで行われてきた人材育成のための仕組みの一つです。主に大企業が採用する伝統的な雇用慣行ですが、制度として活用する上で、その目的や効果について理解を深めることが重要です。ジョブローテーションの運用に必要な知識を解説します。
ジョブローテーションの基本を解説
ジョブローテーションを実施する企業数と期間
ジョブローテーションのメリット/デメリット
ジョブローテーションがおすすめ/おすすめできない企業
ジョブローテーションの導入事例
まとめ
新卒一括採用された社員は数年ごとに配置転換を行いながらスキルや経験を蓄積し、管理職に昇進していくというキャリア形成をたどります。すべての企業に当てはまるものではありませんが、日本で多くの大企業に見られる一般的な慣行です。
定期的な人事異動のなかの、人材育成や能力開発を目的として行われる配置転換をジョブローテーションと呼びます。
ジョブローテーションは、社員の能力開発や適正の判断、昇進・昇格のための選抜などを目的に、人事制度として計画的に職務や配属を変更することを指します。
ジョブローテーションは大企業で行われることが多く、新入社員が比較的短いサイクルで複数の部署を経験することで、各組織の業務や関連を知る機会を作ると同時に、それぞれの職場での適正を見る場として活用されます。
また、幹部候補育成のために、ミドルキャリアの人材をいくつかの重要ポジションに一定期間配属し、管理能力や全社的な視点を養成することもジョブローテーションの目的の一つです。
人事異動は配属や地位(役職)の変更を指し、ジョブローテーションよりも幅広い目的で行われる配置転換です。
人材構成の適正化、部門間の人員調整、マンネリ化・属人化・不正の防止など、必要に応じて行われるものが人事異動といえます。
従来から大企業で行われている定期人事異動は上記のような目的のほか、人材育成に焦点を当てた目的をもって行われるものも含まれます。
社内公募は特定の部署、職種、ポストに対し、社内の人材から応募者を募り、採用されれば異動が行われます。ジョブローテーション、人事異動は基本的に会社の命令で異動が行われますが、社内公募は社員の希望を異動に反映させることができる制度です。
適材適所やキャリア形成という面ではジョブローテーションの一つの形態と見ることができます。
実際にジョブローテーションを行っている企業がどれくらいあるかを、独立行政法人労働政策研究所・研修機構「企業の転勤の実態に関する調査(調査期間2016年8~9月)」を参考に見ていきます。
この調査は従業員300人を超える企業を対象としており、中小企業基本法で定める中小企業は該当せず、一般的に大企業と言われる会社についての調査結果と考えることができます。
「ジョブローテーション(定期的な人事異動)の有無」について、全体の53.1%が「ある」と回答しており、半数を超える企業がジョブローテーションを行っています。
また企業規模別では、規模が大きくなるほどジョブローテーションを実施する傾向が高く、従業員を規模が1,000人以上では7割の企業がジョブローテーションを取り入れています。
(独立行政法人労働政策研究所・研修機構「企業の転勤の実態に関する調査(調査期間2016年8~9月)」)より作成
人事異動の頻度を見ると「ジョブローテーションあり」とした企業では、「3年」と回答した企業が最も多く、それに次いで「5年」「1年」が多くなっています。
(独立行政法人労働政策研究所・研修機構「企業の転勤の実態に関する調査(調査期間2016年8~9月)」)より作成
ジョブローテーションは企業側・社員側それぞれにとって短期的な負担を伴う人事制度です。1人の担当者が変わることで業務が回らなくなることもある中小企業では導入しづらく、組織が大きく、人材と業務・職種が豊富な大企業ほど導入されていることは前の調査結果で見たとおりです。
大きな組織では、効率を犠牲にし、コストを負担しても配置転換を行うメリットが大きいことからジョブローテーションを導入しています。そのメリット・デメリットは次のようなものがあげられます。
以下のような企業側・社員側のメリットがあげられます。
企業側メリット | 社員側メリット |
● 中長期的に人材を育成する取り組みは企業の成長・発展に資する。 ● 社員に複数の業務・職場を経験させることで、適性や能力を判断する機会となる。 ● 組織活性化と社員への刺激となる。 ● 複数の部署の経験者が部署間の連携を促す役割を果たす。 ● 人材が流動化することで、業務の標準化に繋がる。 ● 業務が固定することによる属人化や不正の防止に繋がる。 |
● スキルや経験の厚みが出来ることで成長に繋がる。 ● キャリアパスの実現に繋がる。 ● 自らの適性や能力を判断する機会となる。 ● 社内人脈ができる。 ● 昇進・昇格に 繋がる。 |
ジョブローテーションのデメリットは企業側・社員側それぞれ以下のようなものがあります。
企業側デメリット | 社員側デメリット |
● 異動直後の一時的な生産性の低下や混乱。 |
● 異動先での業務習得・人間関係構築の負荷が大きい。 |
ジョブローテーションは、組織と人的資源に一定の余裕のある規模の大きな企業でなければ必要性と効果が生まれにくい制度です。
一方で、企業規模関係なく、ジョブローテーションにより多能工化や兼務を可能とすることで、職務レベルのスキルアップが部門の生産性向上や働き方の改善に繋がるケースもあります。
大企業ほどジョブローテーションを導入している企業が多いことをあげましたが、組織の規模が大きくなれば、上位の役職になるほど組織全体に及ぶ視点と複数の部署での経験が、ポジションに求められるスキルに大きな影響を与えます。
この点で定期人事異動のなかで行われるジョブローテーションは重要な役割を果たしており、前に取り上げた「企業の転勤に関する実態調査」のなかでも、ジョブローテーションが能力開発や昇進・昇格に対して必要なものとして認識されているという結果が見られます。
高い専門性を持つ職種やスキルレベルに格差がある部門間で異動を行うことが現実的ではない場合が考えられます。また、人的資源をはじめとした組織スラック(さまざまな経営資源の余剰分)が小さい企業では、計画的な人材育成に着手しにくいといった面もあります。
また、給与制度が職能給の場合は異動手続きに問題はありませんが、職務給を採用している場合、給与体系が異なり調整が難しいという点があげられます。
ジョブローテーションの企業の導入事例をご紹介します。大企業によく見られるジョブローテーション、社員の意思を重視したキャリア形成の仕組みづくり、独自のジョブローテーション制度を行っている3つの事例です。
人事担当部門は、人材育成と中期的キャリア形成を人事ローテーションの第一の目的としている。
各部門から組織改編による人員拡充や個人的事情による欠員補充などの異動プランが提出され、人事部門の人材育成・キャリアアップ・登用を踏まえた人材育成プランと調整を行った上でジョブローテーションを検討している。
人事部門ではタレントマネジメントツールを活用。
例年、5月に各社員が上司と面談の上キャリアデザインシートを作成、7月までに事業部門と人事部門が異動プランをすり合わせ、8月に内示を行うという流れ。
従来から実施している「社内募集制度」に加え、2015年より「FA制度」「キャリアプラス」「キャリア登録制度」を新設。社員個人の意思に基づき主体的なキャリア形成を促す制度とした。
「FA制度」は一定期間在籍し一定以上の評価が得られた人材にFA権を付与、希望する異動先があればFA権を行使できる。希望異動先のマネージャーが受入可能であれば1ヶ月の面談を経て、異動の可否が決まる仕組み。
「キャリアプラス」は上司の許可を得た上で、他部門で募集される業務やプロジェクトに兼務する形で参加できる。兼務する業務に当てられるのは通常業務の20~30%としている。
「キャリア登録制度」は上司の許可を得た上で、自らの異動の希望を人材データベースに登録。人事経由でマネジメント層と共有することで異動の希望を可視化、実現するきっかけとしている。
部課制の組織はなく、「クルーシステム」という業務遂行モデルを運用。通常業務を20のファンクションに分類。1日の業務時間を2時間ごとに分割した単位時間をスロットと呼び、クルー(一般スタッフ)は毎朝、当日のファンクションとスロットが割り当てられる。
ファンクショナルオーナー(業務の管理者)は海外オフィスを含めた一般スタッフに対して一括でアサインメント(仕事の割当)を行う。クルーは社内システム上で業務の進捗と結果を報告する。スロット終了後にファンクショナルオーナーがクルーにフィードバックを行う。
未経験の業務でもアサインされ、スロットが2時間単位のため、場合によって1日に複数の業務を経験することもある。社内におけるさまざまな経験と知識が一般スタッフに蓄積されるメリットと本人も分からなかった能力や適性に気づくことがあり、大きく飛躍したクルーも存在する。
新卒一括採用や定年制、終身雇用といった日本の伝統的な雇用慣行が見直される機会が増えています。しかし、その一つであるジョブローテーションが、適性の判断や経営を担う人材の育成に果たす役割の大きさは変わらないのではないでしょうか。
重要なことは、目先の効率にとらわれず、長期的な視点を持ってヒトの育成を考えることです。
また、適性や能力を見極め、ヒトを有効に活用していくという点ではピープルアナリティクスやタレントマネジメントといった新しい考え方を取り入れることも効果をもたらします。
ジョブローテーションを長期的な人材投資と位置づけ、戦略性をもって運用していくことが求められます。
即使える!採用担当者向け
<目次> |