リテンションとは?効果的な施策・事例を紹介!

母集団形成

人手不足倒産が増え続けているなど、企業の安定的な人材確保が難しくなっています。新たな人材の採用に加え、人材を流出させないための施策であるリテンションの重要性は、今後さらに高まっていくと考えられます。

リテンションは離職防止、定着率の向上のための施策を指します。人事制度も関わることから企業にとっては手のつけにくい要素もある反面、組織の生産性を高めるとともに従業員にとっても働き方の改善などメリットをもたらします。

リテンションについて、その必要性や目的、実施方法について事例を加えて解説します。

目次

リテンションとは何か?
なぜ今「リテンション」が大事なのか
リテンションを実施する方法
リテンションの導入事例
まとめ

リテンションとは何か?

Young happy businesswoman talking on the phone and writing notes in office

ビジネスのなかで「リテンション」という言葉が使われる際、人事・人材関連の領域で従業員の定着・引き留めを指す場合と、マーケティング分野で既存顧客の維持・リピート促進といった意味で使われる場合があります。

人事領域におけるリテンションとは、入社した人材が会社に定着し長期に渡って会社に貢献してもらうために、離職を防ぎ組織へのコミットメントを高めていく方法を意味します。

マーケティング分野では、自社の商品・サービスを利用した顧客に対し、他社ブランドへの乗り換えを防ぎ、継続的に利用してもらうためのマーケティング施策を指します。

retention(リテンション)は、「保持、維持」を指す言葉であり、企業と一旦結ぶことができた関係性を保持・維持していくという点で、どちらも同じ意味合いを持っています。

人材の確保・離職防止に関わる施策を指す

人事領域でのリテンションは、入社・在籍している社員を対象とします。早期退職者が多い、あるいは、優秀な人材に限って離職するといった傾向が見られる場合、人事制度や職場環境になんらかの問題があると考えられます。

従業員の出入りが多いことは採用コストの増加や企業イメージの悪化につながり、優秀な従業員の離職は会社にとって損失です。人材を安定して確保することは重要な経営課題であるとともに、人事担当部門が中心となり積極的に解決しなければならない問題です。

施策内容は労働環境の整備・報酬の見直しなど

報酬や処遇、労働条件などの待遇面や人間関係やモチベーションといった精神面も含む労働衛生にその原因が求められる場合など、従業員が退職する理由はさまざまなケースが考えられます。それらに対策を施すことがリテンションのための施策となります。

独立行政法人労働政策研究・研修機構の「日本労働研究雑誌2016年8月号(No.673)に掲載された、青山学院大学山本寛教授の「人手不足に対応する事後の人的資源管理-リテンションマネジメントによる観点から」によると、リテンション施策として、「プラスに働く施策」「リテンションに無関係な施策」「リテンションにネガティブな影響をもたらす施策」をそれぞれあげています。

リテンションにプラスに働く施策

離職を防ぎ、定着率を高めるために効果が見られた施策です。

■「現実的職務予告」

採用の段階で、入職後の仕事や働き方についてネガティブな要素も含めて包み隠さず情報提供すること。これにより、組織への信頼感が醸成される。

■「給与が高いこと」

賃金が高いことは、「退職率の低さ」「勤続期間の長さ」「退職行動の減少」に影響しており、リテンションに効果がある。賃金を含む報酬の配分をどう設計するかが重要。

■「労働時間が短いこと」

労働時間管理は労働条件のなかで優先順位が高い。企業側が適正な労働時間管理を行うことが重要。長時間労働はメンタルヘルスへ影響や疾病や事故の可能性が高まる。

■「従業員持株制度」

ストック・オプションも含まれ、従業員が組織の意思決定に参加していることの証であり、職責と業績に対する意識を高める効果をもたらす。

リテンションに無関係な施策

調査結果として退職率への影響とは無関係だったリテンション施策です。

■「成果給や年功給」

退職率との関連性は見られない。

■リテンションにネガティブな影響を及ぼす

この施策を実施することにより、退職率を増加させてしまう可能性のある施策です。

■「変動給」

アメリカの研究では、固定給から出来高給への変更が高業績者の退職率を高める結果が示されており、従業員が成果主義に対する理解が高い場合は、成果主義的賃金は高業績者の退職率を低下させ、そうでない場合は退職率を高める。

■「電子的監視システム」

退職率にネガティブな影響を及ぼす。

なぜ今「リテンション」が大事なのか

人手不足が常態化し採用難が続くなか、人材獲得競争は厳しさを増しています。必然的に人材の流動化が進み、報酬や労働条件、キャリア形成などを理由に転職する傾向は強まっています。

SNS等の普及により、他の企業や業界の情報が得やすくなっていることや、会社が唯一の帰属コミュニティではなくなっていることなどを背景として、転職への意識が変化してきたことも人材の流動化を促す要因と見られます。

管理職の評価指標として部下の定着率を加える企業も増加しており、人的資源管理という枠組みのなかで従業員の定着率は重要度を増しています。

優秀人材の流出を防止するため

既に戦力として一定の業績や役割を担っている人材の離職は、企業にとって痛手となります。それまでに費やした育成・教育の時間とコストが埋没してしまうとともに、新たな人材を採用するコスト、さらに新たな人材の教育・育成コストが発生することになるからです。

特に優秀な人材の属人的なノウハウや経験への依存度が高いほど、短期的には代替不可能であることも少なくなく、そういった従業員の離職は組織の混乱と生産性の低下を招きます。

社歴が長い従業員ほど、組織に適応した独自のノウハウやスキルが多く保有することになるため、時間のなかで培われた経験的価値が喪失することのインパクトは大きいでしょう。

また、優秀な人材が抜けた穴をカバーするために、残された従業員の負担が増加するとともに、組織全体のモチベーション低下をもたらす可能性も高まります。

採用コストが削減できる

定着率が低い企業は定常的な採用コストの負担を強いられることになります。大卒社員が3年以内に3割が離職するといった経験則はよく聞かれるものですが、一定数存在する早期退職者を削減することもリテンションの大きな目的です。

早期退職者については、組織への初期適応に失敗するケースと指摘する調査研究があり、早期退職者が多く発生する要因として、組織に適した人材を採用するためのプロセス、入職時の教育・研修制度のあり方などを見直しがリテンションの施策として有効とされています。

組織全体で生産性の向上が期待できる

新卒採用、中途採用に関わらず、新たな人材が組織の一員として期待される成果を上げるまでには一定の時間がかかります。そこに至るまでの教育・訓練の期間は新人に成果は期待できず、育成する側にとっても負荷がかかります。

定着率が低ければ、新人に対する教育・訓練に費やす時間とコスト、仕事を教える側の負荷が高まり、組織全体の生産性に影響します。

リテンションを実施する方法

従業員の離職を防ぎ、定着率を高めることを目的とし、企業側と従業員側の関係性を維持する諸活動や施策がリテンションマネジメントです。

リテンションは人事制度や労働条件、職場環境などを対象とし、予防・改善を目的として行われるリテンション施策と、やめてほしくない人材が退職の意思を表した場合、または、その徴候が見られた場合に、個別に行うリテンション施策があります。

ここでは、そのどちらにも対応するために、リテンションマネジメントを始めるにあたって、実施すべき内容についてご紹介します。

STEP1:離職者データを分析する

事後的に入手できる離職者のデータとして、所属部署や勤続年数、年齢、業務内容、平均労働時間、報酬、退職理由などが一般的なものとしてあげられます。他にも考えられますが、一例として、年齢と離職率を関連付けて分析することを考えてみます。

年齢は組織内のキャリアによる成長段階に関連付けられることから、それぞれのステージでのリテンション施策を考える際に役立ちます。年齢別の離職率をグラフ化してみるといったことが有効です。

入社3年未満の年齢層の離職率が高ければ早期退職者が多いことを示し、新規入職者に向けたリテンションを検討する必要があります。転職可能な最終年齢とされる35歳付近の離職率が高ければミドルキャリアに共通した離職の動機を分析し対策を立てることができます。

組織部門ごとの平均勤続年数と離職率を計算し散布図を作ってみると、離職者が多い部署が可視化されるとともに、勤続年数との関係も明らかになり、全社的な傾向と異なる部署を発見することにも繋がります。

STEP2:データ分析に基づいて対応策を作成する

STEP1の結果を踏まえ、早期退職者の退職率が高いケースでは、自社に適応する人材を採用できていない可能性に対して採用プロセスを見直すことや、入社後の適応を促すためのメンター制度の導入といった対策が立てられます。

ミドルキャリアの人材の離職が高いケースでは、退職の理由に関する情報も吟味した上で、待遇面の改善やさらなるキャリアアップのための道筋を具体的に示すことなどが有効なリテンション施策となるでしょう。

STEP3:定期的に測定を行い離職状況を確認

離職状況を時系列で定期的に分析することとともに、離職の兆候を発見するための施策も必要になります。発言や行動の変化など現場の管理者が気づきケアが必要なケースに加えて、人事部門による従業員満足度調査などのサーベイを定期的に行いながら、各職場の状況を継続的に把握する取り組みも効果的です。

リテンションの導入事例

リテンションマネジメントは業種や企業規模はもちろん、それぞれの企業により特色が表れます。リテンション施策の導入事例として、経済産業省 経営競争力強化に向けたマネジメント研究会 報告書「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査(経営力強化に向けた人材マネジメントに関する提言および先進企業事例)【報告書】2019年3月29日」から対策事例を引用してご紹介します。

事例1:p.37【金融業C社】 複数人事制度の整備を通じた高度専門人材の獲得・受入

【課題】

大手金融グループC社は優秀な人材の採用・育成により安定した人事政策を実施。今後も新卒採用重視の方針は変わらないものの、金融テクノロジーの発展に伴い多様な人材ニースが発生すると同時に、プロパー人材が高報酬で外資や異業種競合に引き抜かれるリスクが顕在化。

【施策】

必要な人材確保のために高度プロフェッショナル人材に向けた新たな制度として、職種別のきめ細かな報酬レンジや、柔軟な報酬決定ルールを導入。

制度導入に際し、既存の人事制度と新制度の転換ルールの整備。「リスクとリターンが異なる仕組み」の理解と運用を徹底し社内の納得感を確保。プロフェッショナル人材の獲得にも成功した。

今後は採用とリテンションに注力しながら、従来の人事制度をプロフェッショナル育成にフォーカスした形への見直しを検討。

事例2:p.40【サービス業E社】自発的な貢献意欲の向上を通じた顧客満足度・離職率の改善

【課題】

介護業界大手E社は介護業界に共通する高い離職率の改善と生産性の向上に取り組む

【施策】

毎月従業員に対する極めてシンプルなサーベイを実施。情報端末を持たない・使えない従業員も多いことから、各職場に「アンケートBOX」を設置。紙ベースで情報を収集し従業員の状況・意見をモニタリング。

設問は以下の3つのシンプルなもの。
「仕事にやりがいを感じているか」
「自社で働くことを家族・知人に勧められるか」
「周囲との人間関係は良好か」

これに加えて職場・業務改善に向けた自由回答を記入できる。
サーベイの結果が離職率や顧客満足度の先行指標として機能し、状況に応じたサポートや対策を実施。顧客満足度の改善と離職率の改善に繋がった。

事例3:p76【サービス業M社】カジュアルかつ高頻度なコミュニケーションを通じた成長促進

【課題】

大手サービス業M社は外部から採用したプロフェッショナル人材の定着・有効活用のための新たな評価制度を構築。

【施策】

形式的なレイティングを廃止し、月1回以上の上司・部下の1on1ミーティングを実施。目標管理や仕事の相談、キャリアに関する相談等を行う。

現場マネージャーとメンバー間の信頼関係が醸成されたことがリテンションにつながった。広い裁量のなかで自律的な挑戦や成長を促す仕組みとして有効に機能している。

まとめ

リテンションは企業側の人材の確保、有効活用だけにとどまらず、従業員側にとっても働き方の改善や新たなキャリア形成に繋がる取り組みです。検討要素は人事制度にまで及ぶため、経営サイドの課題として全社的にコミットしていくことが必要とされます。

さらに、退職は従業員にとって重い判断であるとともに、心理面・感情面など繊細な対応が求められるケースもあり慎重な対応も求められます。

人材不足の解消は期待できず、転職や働くことへの意識は着実に変わってきています。リテンションのための対策は、企業にとって今後さらに重要度を増していくでしょう。

最終面接で見極めるべき!7つの要素と質問方法

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本資料では最終面接までに確認しておきたい
そんな7つの要素をご紹介。
1.カルチャーフィット
2.企業理念や事業内容への理解・共感
3.志望意欲の高さ
4.事業への貢献度
5.成長意欲
6.将来性
7.定着率、ストレス耐性

選考時に実践していただけたら幸いです。

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