健康経営とは?目的・取組事例をわかりやすく解説します
母集団形成少子高齢化が進み、生産年齢人口層の減少による人手不足や従業員の高齢化、介護や支援が必要な人の増加による働き方の変化など、企業を取り巻く環境に応じた経営が求められるようになってきています。
健康経営とは企業で働く従業員、つまり「ヒト」の健康を重視することが企業価値向上に結びつくという考え方の下、国が主導しているものです。さまざまな取り組みを促す制度全体を指しており、近年注目が高まっています。
健康経営について、その取組事例とあわせて何をすべきか解説しましょう。
目次
健康経営とは?
健康経営の取り組み例
健康経営に取り組むべき企業とは
健康経営の導入事例
まとめ
健康経営とは?
健康経営とは、従業員の健康増進が経営にプラスの効果をもたらし、ひいては企業価値の向上に繋がるという考え方のもと、従業員の健康管理を経営課題と位置づけて戦略的に実施する経営手法を指します。
「健康経営」という言葉自体は、米心理学者ロバート・ローゼン氏が提唱したヘルシーカンパニーという言葉を取り入れたものです。従業員の健康管理を福利厚生という視点ではなく、経営戦略の一つとして位置づけるという考え方が基になっています。
日本では少子高齢化による社会保障費の増大、過労死や自殺といった労働災害の増加を背景として、2013年に閣議決定された日本再興戦略のなかで「国民の健康寿命の延伸」という項目が掲げられ、以降、健康経営は国が推し進める形で広がりを見せています。
従業員の健康管理を経営的に考える事
健康経営は、経営資源としてのヒト・物・金・情報の中で、ヒトの部分を他のリソースと同列に捉えるのではなく、健康というヒトにとって最も重要な要素を維持することが他の経営資源を有効に活用するための前提だと再認識したものと考えることができます。
少子高齢化により従業員全体の高齢化が進行していく中で、健康管理の重要度が高まっていくことに加えて、ヒトを他の経営資源と同様に扱うことによる弊害を是正していこうという意識が健康経営には込められています。
従業員の健康が組織成長に必要不可欠であるため
(画像引用元:経済産業省「健康経営の推進について」P39より)
経済産業省が公表している「健康経営の推進について(令和3年10月)」という資料の中で、従業員の健康が企業の持続的成長に結びつくまでの考え方が以下のような形で整理されています。
1:心身の健康関連(個人の心身の健康状態の改善による生産性の向上)
疾患リスクの減少→労災リスク減少、生産性損失の減少→医療費抑制→コスト削減2:組織(組織の活性化)
組織活性化→仕事満足度向上・エンゲージメント向上→離職率低下3:企業価値(企業価値の向上)
取り組みの公表→企業イメージ向上→顧客満足度、ブランド力向上→リクルート効果
企業が従業員の健康に対して積極的に介入していくことが、経営にさまざまなメリットをもたらします。
健康経営の取り組み例
経済産業省では健康経営優良法人認定制度をつくり、評価基準を満たした企業を認定・公表しています。健康経営の趣旨からすれば、企業ごとにその取り組みは個別にあるのが本来の姿ですが、健康経営のために何を実施するかという点では、実質的に当認定制度の評価内容が取り組むべきだと捉えることができます。
当認定制度の認定要件は大規模法人部門と中小規模法人部門に分かれ、7つの必須項目と16(大規模法人)、または、15(中小規模法人)の評価項目が挙げられています。
また、評価項目は、1.経営理念・方針、2.組織体制、3.制度・施策実行、4.評価・改善、5.法令遵守・リスクマネジメントの5つに分類されます。
従業員の健康状態を把握する
評価項目のうち3.制度・施策実行の最初に挙げられているのが「従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討」です。具体的な取り組みとしては、「従業員の健康診断の実施(受診率100%)」「受診勧奨に関する取り組み」「50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施」が挙げられています。
労働環境の改善に取り組む
労働環境を改善することは「具体的な健康保持・増進対策」に含まれ、下記のような具体的な取り組みが示されています。
● 食生活改善
● 運動機会の増進
● 女性の健康保持・増進
● 長時間労働者への対応
● メンタルヘルス不調者への対応
● 感染症予防
● 喫煙対策
医師や保健師による個別相談や健康セミナーを実施する
個別相談やセミナーによって個々の従業員に寄り添い、健康に関する啓発を行っていくことは健康経営にとって重要です。
評価制度の中では、健康セミナーなどの啓発活動は健康経営の実践に向けた土台作り、ヘルスリテラシーの向上として「管理職・従業員への教育」が含まれています。
医師や保健師による個別相談やセミナーは具体的対策に含まれ、「保健指導」という評価項目が設定されています。制度的には個別相談や指導は医師・保健師が行うものであること、それを行う場所と時間を企業側が提供するものかどうかが基準となります。
健康経営に取り組むべき企業とは
健康経営は特定の企業が取り組むべきものではなく社会的な課題としてすべての企業に求められるものですが、ブラック企業という言葉に象徴されるような、健康経営の考え方からかけ離れた倫理観のもとに経営を行っている企業も少なからず存在します。
長時間労働の問題やメンタルヘルスに影響を及ぼす要素など、従来のやり方では解決できない課題を解決するためにも健康経営の考え方を取り入れてみるべきでしょう。
ストレスチェックが高い企業
体の健康とともに心の健康はこれまで以上に関心を持たれるようになってきた健康要素です。心の健康状態は公正に測ることが難しいため、ストレスチェックテストや上司による個別面談によって、より積極的に企業側から介入していくことが求められます。
早期退職や勤続年数が短い人が多い企業
定着率が低い企業は健康経営の視点からは多くの問題を抱えていると考えられます。辞めるという判断に至る原因を突き止め、それが労働条件や職場環境によるものであれば改善が求められます。
健康経営の導入事例
健康経営の企業事例について、経済産業省「2021健康経営銘柄選定企業紹介レポート」「健康経営優良法人2021(集小規模法人部門)認定法人取組事例集」から、それぞれご紹介します。
事例1:日本水産株式会社
(所在地)東京都(事業概要)水産事業・食品事業・ファインケミカル事業(従業員数)1,247名
【組織体制】
人事部労務健康企画課、CSR部広報課、営業企画部、健康管理センター、健康保険組合の各組織で健康経営ワーキンググループを組成、CSR委員会に報告を行う。
【経緯】
2016年にCSR行動宣言を制定、「健康経営」はそのなかの重要課題の一つ。2017年に健康経営宣言を制定し「従業員が能力を十分発揮できること」「従業員とその家族のQOL向上」を柱とし、各種施策を実施している。
【取り組み】
● 自社商品のEPAサプリの活用による健康づくりに着目し、EPA/AA比を全社員の健康診断項目に取り入れる。この数値の目標値を設定して全社員の生活習慣病予防に取り組む
● 生活習慣病予防のための、運動・食事・日常習慣(酒・タバコ含む)・快適生活それぞれの達成基準を設定し、60日間で達成した場合にポイントを付与するキャンペーンを実施
● 本社社食にスマートミール認証を受けた「ヘルシー弁当」を導入
● オンラインによる健康UPセミナーを年間4回実施
● 2011年からストレスチェックを導入。匿名、24時間365日相談可能なサポート体制を整備
● 2018年から福利厚生制度にカフェテリアプランを導入
事例2:日本高度紙工業株式会社
(所在地)高知県(事業概要)コンデンサ用セパレータ、機能材製造(従業員数)444名
【組織体制】
社長をトップとし、安全衛生委員会、メンタルヘルス推進委員会、健康づくり施策企画・実行部門からなる組織を「こころと身体の健康づくり体制」として組織。
【経緯】
2019年健康経営優良法人ホワイト500に初認定、2020年3月にパルプ・紙業種では初めてとなる健康経営銘柄に選定される。
【取り組み】
● 全従業員対象の健康づくり研修を実施、研修の理解度をモニターし98%以上を達成
● メンタルヘルス推進委員を中心としたセルフケア研修を実施
● 女性同士のコミュニケーションを重視し職場環境の改善を図る
● 高知龍馬マラソンへの参加推奨
● クラブ活動、家族を含む健康イベント開催、健康支援アプリ導入
事例3:国際建設株式会社
(所在地)山梨県(事業概要)建設業(従業員数)46人
【組織体制】
災害、感染症発生時のBCP体制及び指揮命令系統を準用。産業医、社労士、健康づくり担当者、衛生管理者で構成する安全衛生委員会を月次に開催。
【経緯】
国内労働人口減少と残業時間規制を見据え働き方改革と合わせた健康経営に着手。従業員の体調不良や欠勤による労働損失抑制を目的に健康経営を開始。
【取り組み】
● 睡眠時無呼吸症候群(SAS)による交通事故・労働災害・生産性低下を低減するため保険会社のSASチェックサービスを健康管理に活用
● 禁煙セミナー等と平行しながら禁煙・分煙を行い、将来的には敷地内全面禁煙を予定
● 慢性腎臓病予防として定期健康診断メニューにクレアチニン検査を設定
● 山梨県が推進する「やまなししぼるとメニュー」に準拠した食事を社食にて提供
● 女性のがん予防意識を高め、子宮頸がん検診受診勧奨を行い、受診しやすい環境整備を行う
まとめ
健康経営は経営体力に余力のある大企業の取り組みが多く取り上げられています。しかし、健康経営の理念に叶った取り組みは、経営環境の厳しい中小企業にこそ求められるものであり、健康経営を実現することで生産性の向上や従業員エンゲージメントを高めることにつながっていきます。
健康経営の従業員を主眼に置く考え方は働き方改革も同様であり、両者をバランス良く進めていくことが求められています。
良 「良い人材だと期待したのに選考辞退」 本資料では、そんな良い人材を早期かつ確実に <本資料の内容>
|