要員計画を策定することは人事部門の重要な役割の一つです。しかし、効果的な計画として結果に結びつけている企業は多くはありません。人手不足が深刻化するなかで、ヒトを有効に活用していくことの重要性は多くの企業にとって切実な課題となっていきます。
この記事では、要員計画の本質と目的、実効性を持った計画にするために必要な要素について、事例を加えて解説します。
要員計画とは?基本をチェック!
要員計画の立て方は2種類ある
要員計画で得られるメリット
要員計画の失敗要因と具体的な成功事例
まとめ
事業計画のなかで、人的資源に関する部分を見積もることが要員計画です。企業が事業を開始・継続していくためには、どんな能力を持つヒトを何人、どこに配置すべきかを見積もる必要があります。
それに対して、ヒトの調達・確保にかかる費用はコストである以上、見込まれる売上に対して適正な範囲に抑えなければなりません。
人的資源の投入(インプット)と、それによってもたらされる売上(アウトプット)の両面から最も効率的な従業員の人数・質(能力)・配置を考えることが要員計画です。
人的資源は他の経営資源と異なり、調達(採用)時点で質(成果)が未知数であること、育成に時間を要すること、定年も含めて退職する可能性があることなど、長期的な時間軸のなかで、量・質ともに変動します。また、外部環境の変化や企業の成長に応じて組織の構成と必要な業務も変化していきます。
これらの変化に合わせてヒトの数と質を管理していくことが要員計画の中身ということになります。
必要な能力を持った人材を必要な数だけ調達するための採用、業務を効率的に運営するための適正な人材の配置、人材の適性に応じた異動など、要員計画のなかでヒトを管理しなければならない要素は多岐にわたります。
従来の人材戦略は新卒一括採用を前提とした、自社の人材の長期的な管理という枠組みとして捉えられていました。しかし現在では、就業人口の減少による人手不足と社会全体の高齢化、多様化する人材ニーズといった環境変化に対応した新たな人材戦略が求められています。
これに対し、「人材マネジメントが効果的に実践できている」とする企業は全体の3割、「人材戦略が経営戦略と紐付いていない」と答えた企業も3割超存在するという調査データ※もあり、経営戦略を実現するための効率的かつ効果的な人材活用が進んでいないのが現状といえます。
いかに有効な形でヒトを活かしていくかが問われる時代に、適切な要員計画を立てることの重要性はますます高まっています。
※パーソル総合研究所「タレント・マネジメントに関する実態調査(HITO REPORT 2019/6)
要員計画と人員計画は同じ意味として使われる場合もありますが、要員計画は事業計画を実行する上での「必要な人材と人員規模」を決めることであり、人員計画は要員計画をもとに「誰をどこに配置するか」という具体的内容を決めることを指します。
採用計画は新たに人材を獲得することであり、定常的に発生する退職や異動による欠員、または、組織や業務の変更に合わせて「いつ、どんな人材を、何人」入社させるかを決めるものです。
要員計画はインプットとアウトプットの両面からの検討が必要であることを述べました。さらに言い換えると、経営サイドから見て採算の取れる人員と、現場サイドから見て必要な人員との双方から人的資源の量(人数)と質(能力や役割)、配置を決めることが要員計画です。
採算人員数から算出する方式はトップダウン方式(または、マクロ方式)、必要人員数から算出する方式はボトムアップ方式(ミクロ方式、積み上げ方式)と呼ばれます。
トップダウン方式は、経営戦略に基づく事業計画で設定された目標売上高を基準として、利益からどれぐらいの割合を人件費に振り向けるか(労働分配率・人件費率)を決め、その総額人件費からまかなえる人員数を割り出すという考え方です。
人数・時間当たりに生み出す利益(労働生産性)、同じ業界や業種の賃金はどの程度か(賃金水準)などの指標をもとに1人当たりの人件費の水準を決めます。
総額人件費を1人あたりの人件費で割ったものが、その事業計画のなかでまかなえる人員数ということになります。
ボトムアップ方式は業務量を基準とし、その業務を消化するために必要な人員数を割り出すという考え方です。
目標生産量を1人あたりの標準生産量で割ったもの、あるいは、全体の業務遂行に必要とされる時間を1人あたりの実働時間で割ったものが、その部門で必要とされる人員数となります。
経営サイドにはコストである人件費は減らしたいというインセンティブが働きます。しかし、トップダウンで算定した人員数が、業務を円滑に行うために必要な人員数に足りていなければ従業員に過大な負荷がかかり生産性を落とします。
現場サイドでは人手が足りない状況や忙しすぎることを避けたいことから、必要な人員数を多く見積もる傾向があり、また、適正な業務量を算定することが難しい場合や業務量の変動が大きい場合など、ボトムアップで算定した人員が適切でないことも考えられます。
以上のことから、要員計画はトップダウンとボトムアップの両面から検討する必要があります。
要員計画では、事業計画から必要とされる人員ニーズと業務の現場サイドからの人員ニーズをすり合わせる形で、人的資源の活用を検討することになります。より詳細なヒトに関する情報をもとに、人材の能力や人数、配置が決められるため、人的資源管理におけるさまざまな問題を解決することに繋がります。
要員計画により、現場の業務そのものや職場の実情を反映した人材ニーズと、事業計画を達成するために望ましい人材ニーズの両面から人員数と配置、配置される人材の能力や専門性が検討されます。その結果、適材適所が実現し、ミスマッチを防ぎ職場の生産性を高めることに結びつきます。
トップダウンとボトムアップの両面から要員計画を検討することで、業務の実態とコストの双方から人員を割り出すことになります。多くの人員数を求める現場からの要請と、コストを抑えようとする経営側からの意向が調整されるため、最も効率的な人員配置が実現されます。
ボトムアップによって欠員の発生状況や業務に求められる人材の質が明らかになり、トップダウンからは将来的に必要とされる人材ニーズが示されます。新たに必要とされる人員規模と調達すべき人材の質が具体的になることで採用活動をスムーズに進められます。
要員計画の策定は、経営サイドと現場サイドが納得できる落とし所を見つけるための難しい作業です。上手く行かない場合は業績の低下や現場からの苦情に繋がってしまいます。失敗の要因として見られる具体例と解決策、成功に繋がった事例をそれぞれご紹介します。
■人件費削減による現場の生産性低下
効率的な経営と経費削減は経営者の至上命題です。業績悪化や過度に生産性を求めるあまり、人件費を削減し人員整理を進めすぎると、従業員のモチベーションが低下し、残された従業員の負荷の増加、それに伴う生産性の低下と離職の増加などを招きます。
一時的に利益は増加しても、経営へのダメージは残り続けます。従業員の能力に依存した生産性の向上ではなく、設備投資やシステム化など具体的な効率化とセットにした人員整理を行う必要があります。
■積極的すぎる要員計画
急成長を遂げるベンチャー企業など、業容が急拡大し従業員も急激に増加する例はよく見られます。しかし、事業計画の精度が甘く、後に整理解雇に追い込まれるといったことも起こりがちです。
要員計画というよりは経営戦略の失敗ですが、人的資源管理を軽視した結果であることは否めません。事業計画を立てる際、さらには経営を行うにあたってのヒトの重要性をより認識することが大切です。
■採用計画の遅れ
新たな人材ニーズが顕在化しても、採用の意思決定から入職まで時間がかかるため、人材ニーズを充足させるまでのタイムラグを考慮する必要があります。
採用は水物といった側面もあり、人事部門にとっては難しいところですが、人員の充足状況や退職の兆候が見られる社員などの情報を現場と継続的に共有することも必要です。
電子部品メーカーF社では、足下の業績が堅調であったことから、各部門から例年の2倍の人員要求が人事部にあげられました。しかし、ここ数年の採用数は人員要求を下回る水準に抑えていたこともあり、人事部では人員要求の現実性を確かめるために各部門にヒアリングを実施します。
各部門からの要求は、意欲的な業績目標だったこともあり、ヒアリングから適正な増員数を割り出すことはできませんでした。
そこで、人事部担当者は、一人当たり売上高(生産性)と人員数(人的資源投入量)をもとにしたシミュレーションを行い、生産性を向上させるケースと増員するケースの2つのシナリオを作成しました。
それに加え、過去数年間の部門別の生産性分析を行い、人員投入に対する業績の伸びを可視化。それら2つのデータをもとに、各部門との要員計画を協議した結果、現実的な要員計画を作成することに成功しています。
要員計画は企業の業績と現場の運営を左右する重要な決定です。また、計画を策定するまでには調整という側面があり、経営サイドと現場サイドの納得性を高めるための根拠も必要になります。確かに難しい要素も多く、結果に結びつかないケースも起こりがちであることは事実です。
特に人手不足の状況下で採用に問題を抱える企業は少なくありません。自社で解決できない場合は採用のプロに委託することも選択肢の一つとなります。
【記入例付】いますぐ上司と目線合わせができる! ではどうすれば、要件がすり合うのでしょうか?まずは、経営と現場の両サイドの情報を整理、マスト要件等の定義、市場等のすり合わせの順に展開するとスムーズです。 ただし、これらを何も使わずに会議で議論しながら進めることはほぼ不可能です。 中途採用サクセスでは、採用コンサルタントが有料研修で提要している内容を、採用担当者が自社で使いやすい形に資料化しました。
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