採用力の強化を目的に注目度が高まる「限定正社員」。正社員と非正規社員との処遇の違いによる社員のモチベーションアップや、優秀な社員の離職防止を目的に導入する企業が増えています。
この記事では、限定正社員とはどういった制度なのか、その種類、導入状況や得られるメリットやデメリット、導入事例、解雇が可能かどうかといったことまで徹底解説いたします。
限定正社員とは?
限定正社員のパターン
正社員との違い
契約社員との違い
普及目的や導入状況
限定正社員の導入方法
限定正社員導入のメリット、デメリット(企業側/求職者側)
限定正社員のメリット
限定正社員のデメリット
導入にあたって留意したいポイント
まとめ
限定正社員とは、「勤務地」、「職務(仕事内容)」、「勤務時間」を限定して働くことができる、期間の定めがない雇用形態です。前述した条件1つを限定する場合もあれば、掛け合わせで2つ以上限定することも可能です。
名称 | ポイント | 対象者 | |
1) |
勤務地限定正社員 |
転勤が一切ない or 転勤エリアが限定されている |
・地元密着で働きたい人 |
2) |
職務限定正社員 |
担当する職務・範囲が明確に区別されている | ・得意分野の仕事に集中したい人 |
3) |
勤務時間限定正社員 |
労働時間がフルタイムではない or 残業が免除されている | ・子育てや介護など、家庭と仕事の両立を図りながら働きたい人 ・事情があってフルタイムでの稼働や残業が難しい人 |
勤務地限定正社員とは、就業する地域(ブロック、エリア)を限定した正社員です。限定方法はさまざまあり、「自宅から通える範囲内での異動がある」「1事業所限定で働く」「都道府県を越える異動もあるが、転居はない」など労働者ニーズや企業側の課題に応じて設定されます。
職務限定正社員とは、職種や仕事内容を限定して働く正社員のことを指します。急な人事異動によって職種や仕事内容が変わることはありません。
担当する業務範囲を明確に分けることで、生産性を上げたい企業に利用されています。また、「総合職」とも呼ばれることがある正社員とは異なり、特定の業務を集中して担当することにより、プロフェッショナルの育成を目指すことが可能です。
勤務時間限定正社員とは、働く時間や時間帯が制限された正社員のことです。主に下記の様な3つのパターンがあります。
<パターン>
・短時間正社員:所定労働時間が正社員に比べて短い
・残業免除等正社員:残業なしといった時間外労働の免除が認められている
・勤務日数限定正社員:所定労働日数が正社員に比べて少ない
こちらは育児や介護などの理由により、フルタイムで働けない場合に利用されます。副業やボランティアといった「本業以外の事柄と両立しながら働きたい」というニーズに対応できるため、今後さらに導入が増えることが予測されます。
「限定正社員」と「正社員」との違いは何でしょうか?
Wikipediaで「正社員」と検索すると、下記の通り記載されています。
「企業は労働者に対し日常業務において広範な指揮命令権を持ち、特に幹部候補として採用された労働者は配置転換、出向、転勤など企業内労働市場、企業グループ内労働市場の中での異動があり、原則これを拒否できない」
引用元:「正社員」|Wikipedia
一方の「限定正社員」は、無期雇用・直接契約といった点は正社員と同様でありつつも、勤務地、職務内容、勤務時間のいずれか(あるいは複数)を限定した条件で企業と労働契約を結ぶことが可能です。
昇給や昇進、退職金規程、福利厚生といった待遇面も、法令的に正社員と同一であることが保障されおり、言葉は違えどほぼ正社員と同義と言えるでしょう。
但し、給与やボーナスの支給額は、限定内容によって企業ごとに規則を設けることができるため、企業側はトラブル回避のためにも労働者に対してしっかりと内容を明示するようにしましょう。
契約社員とは、5年間という契約期間の定めがある(有期労働契約)社員です。正社員が無期契約で働くのに対して、契約終了期間が決まっていることが特徴として挙げられます。
職務範囲や責任範囲は企業によって異なりますが、一般的に賞与や退職金などはなく、正社員と契約社員とで利用できる福利厚生などが異なるということは往々にしてあるようです。
2013年4月の法改正に伴い、契約期間が5年を超えた場合、雇い主は無期雇用契約に切り替えなければならないと法律で定められています。
近年、働き方改革が叫ばれるようになったことから「正規雇用と非正規雇用の格差を是正する」「ワーク・ライフ・バランスを整える」「優秀人材を確保し、定着させる」といった目的で導入が進んでいます。日本における導入状況を見てみましょう。
厚生労働省が公表している『令和元年度雇用均等基本調査』によると、各制度ごとの導入状況は「勤務地限定正社員制度」が17.8%、「職種・職務限定正社員制度」が11.1%、「勤務時間限定正社員制度」が16.7%という結果に。導入を検討する企業は増えているものの、実際に導入している企業はまだまだ少ないと言えるでしょう。
また、限定正社員制度がある事業所において、平成30年10月1日から令和元年9月30日までの間に制度を利用した者がいた事業所割合は、「勤務地限定正社員制度」が38.8%、「職種・職務限定正社員制度」が35.1%、「勤務時間限定正社員制度」が31.9%(複数回答あり)となっており、こちらもまだまだ高い利用率とは言えない結果に。
導入するだけでなく、利用しやすい制度の中身や環境づくりが求められています。
限定正社員の具体的な導入方法についてご紹介しましょう。
限定正社員の導入にあたってまず取り組みたいのが、限定正社員を導入する目的を明確化することと、変更箇所の決定です。「地元志向を持つ社員を引き留めたい」「育児や介護による退職を減らしたい」といった目的に応じて、どういった限定社員制度を導入するのが最適なのかを決めましょう。
目的に応じて「職務要件はどうするか?」「どのような働き方にするのか?」といった事柄について、決定しましょう。勤務地や職務内容、勤務時間といった内容をはじめ、期待する役割など、事細かに設定します。
基本的に就業規則が現行と変わる場合は、就業規則の変更が必要になります。また、使用者は改訂内容について労働者代表に確認をとる義務がありますので注意しましょう。以下が必要なケースとなりますので、今後のためにも覚えておきましょう。
<就業規則の変更手続きが必要となるケース>
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限定正社員は就業規則の変更が伴いますので、導入するにあたり社員への周知や理解促進が必要です。制度利用者とそうでない社員の間で不満が生じないよう、導入目的やメリット・デメリット、マネジメントする上での注意点などについて説明を行いましょう。
仕事内容やエリア、時間など内容を限定することにより、企業と労働者の双方でどんなメリットやデメリットが得られるのでしょうか?
働くエリアや時間、仕事内容などを絞ることによって、労働者はさまざまな個々の状況に応じて働くことが可能となります。企業側としても、理由があって働くことを諦めていた優秀層を獲得することができるようになるというメリットがあります。
ここでは、企業・労働者双方のメリットについてご紹介します。
勤務条件を限定することで、個人の条件に合わせた働き方を選ぶことが可能となります。そのため、育児や介護といった家庭の事情によって、就業条件に制限がある優秀な人材を獲得・確保することにつながります。また、離職防止にも繋がるため、定着率の向上も期待できるでしょう。
「家族との時間を大切にしたい」「プライベートの時間を確保したい」など、従業員一人ひとりが理想とする生活を会社が支持することで、多様な働き方の実現が可能に。結果として、仕事に対してモチベーション高く取り組み、会社への愛着心を高めることが目指せます。
勤務地限定正社員を採用することによって、そのエリアならではの特性やサービスといったノウハウを蓄積し、提供することが可能となります。地元のニーズに合ったサービスを展開することによって、地元顧客や固定客の確保も期待できるでしょう。
2013年に厚生労働省が発表した改正労働法で、有期労働契約に関する新しいルールができました。
1.無期労働契約への転換 有期労働契約が繰り返し更新されて5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールです。 2.「雇止め法理」の法定化 最高裁判所で確立した「雇止め法理」が、そのままの内容で法律に規定されました。 一定の場合には、使用者による雇止めが認められないことになるルールです。 3.不合理な労働条件の禁止 有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールです。 |
このように非正規雇用で働いている労働者の受け皿を限定正社員とすることで、技能の蓄積や承継、人材育成が可能となります。また、人材の獲得に苦戦する企業はもちろん、理念や技術、企業精神といった承継問題でお悩みの企業にとっても有効な手段の一つと言えます。
「正社員」同様、長期雇用を前提としているため、安定した雇用条件の下で働くことが可能となります。特に非正規雇用の場合、限定正社員化させることによって安定した雇用条件の下で働くことが可能となります。
また、自由度は高いものの収入や福利厚生面において条件が悪い場合がほとんどのため、処遇面は良くなると言えるでしょう。
労働者一人ひとりの希望に沿った働き方が可能となることにより、仕事とプライベートの両立を実現させることが可能となります。特に、育児や介護といったやむを得ない事情を抱える労働者の場合、限定された雇用条件のもと契約を取り行うことで、精神面や体力面での負担軽減にもつながるでしょう。
中長期的に働くことが可能となることで、安定したキャリア形成を行えるようになります。長期にわたり職務を担当することにより、その領域のスペシャリストとして経験や知識を習熟させることにもつながるため、キャリアアップにもつながります。
限定正社員制度の導入を検討する際は、デメリットや注意点についても理解しておく必要があります。
雇用形態の種類が増えると、人事管理が煩雑になることが懸念されます。特に、契約社員や派遣社員、パート、業務委託など、様々な契約形態の社員が混在する企業の場合はなおさらです。
また、限定正社員は内容に応じて給与体系などを変える必要もあります。円滑に運営できるよう、導入時は自社の状況に応じた制度の見直しや設計が必要となることを覚悟しましょう。
といった具合で、残業や転勤のない限定正社員に対し、正社員から不満の声が上がることも想定に入れておきましょう。
ここでポイントとなるのは、限定された雇用条件の中でどのように給与体系や評価制度を設定し、処遇のバランスを保つかどうかという点です。バランスを保ちつつ、双方が納得して働けるよう制度設計に努めましょう。
例えば、新型コロナウィルス(COVID-19)の流行による就業スタイルの変化や経営の方向転換など、ケースによっては柔軟に対応できないケースも予想されます。さまざまなケースを想定し、配置転換なども視野に入れて制度設計を行いましょう。
例えば仮に、限定正社員を何らかの理由で解雇する場合も、正社員同様の煩雑な解雇手続きが必要となるので注意が必要です。
労働条件に制限があることから、正社員と比較すると給与が低い傾向に。実際、第一生命経済研究所が発表した調査データにおいても、「不合理な賃金差」を不満要素として挙げる人が多いことが分かっています。
職務領域や勤務地を限定した働き方を選択すると、任せられる領域が限定されて積める経験が通常より狭くなってしまうことから、昇進が遅れるケースが多いようです。
特に日本においては、全国転勤できる・総合職型の人材が優遇されることが多く、現場レベルでは正社員と限定正社員の間にはガラスの壁が存在するとも言われることもあります。
経営上の理由などによって担当業務が無くなったり、勤務する営業所がクローズとなった場合、限定正社員は解雇されやすいと言われています。もちろん労働者を守るため、労働契約法16条上も、解雇にあたり社会通念上の妥当性や合理的な理由は求められます。
しかし、その観点から見ても、担当領域や勤務エリアが限定されるといった契約をしている以上、企業側としても解雇しないよう努力する際の制限を受けていると言わざるを得ないのです。
賃金やキャリアステップといった観点において、限定正社員と正社員の公平性を保つことが重要です。
給与はもちろん、昇進や昇格のスピード感などを含めて、正社員と限定正社員との間で著しく処遇格差が生まれないようバランスを取りながら制度設計しましょう。
例えば、労働者が中長期視点でキャリアイメージを描けるように職業訓練機会の提供や研修支援を行うといったことが挙げられるでしょう。
たとえ雇用条件が限定されているとしても、事業所が閉鎖したり職務内容が無くなったりした事によって即座に解雇ができるわけではないことを忘れてはなりません。
配置転換などを視野に入れて、企業として解雇を回避する策を講じておきましょう。
限定正社員制度の導入は、多様な働き方を可能にし、優秀な人材の獲得や離職防止といった効果が期待できます。しかし、人件費抑制など企業側の都合だけを目的にしてしまうと、導入したところで利用者は増えず、かえって不満が溜まってしまう可能性もあります。
社員のニーズに耳を傾け、自ら納得して働き方を選択できるような、公平で透明性のある制度構築と運用を目指しましょう。
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