マトリクス組織とは?意味・事例・効果も分かりやすく解説!

母集団形成

ツーボスシステムともいわれるマトリクス組織はグローバルに事業を展開する企業を中心に広く導入されています。高度な経営管理の仕組みが必要となる一方で、ビジネス環境が大きく変化する不確実性の高い時代に即した組織形態です。

この記事では、マトリクス組織について、その仕組みの理解とメリット・デメリット、導入企業の事例を含めて解説します。

目次

マトリクス組織とは?
マトリクス組織のメリット
マトリクス組織のデメリット
マトリクス組織の導入事例
まとめ

マトリクス組織とは?

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マトリクス組織は2重の指揮命令系統により混乱や摩擦が生じやすいという構造を前提としていますが、それを調整し最適化を図る点に価値を見出そうとするものです。

特に広い製品分野や販売地域を持つ規模の大きな組織にとっては、その有効性が認められています。

複数の軸を組み合わせた組織体制

企業組織は営業や製造、財務など、異なる機能を持つ部門によって分業されています。それぞれの機能に対し、経営トップを頂点とする垂直的な階層構造により一元的に管理統制する組織構造を機能別(職能別)組織といいます。

企業規模が拡大し製品・顧客・地域・プロジェクトの種類が増えると、製品別や地域別といった、マーケットを軸とした水平的な管理統制が必要とされるようになります。

マトリクス組織は、既存の機能別組織の垂直的な指揮命令系統に加えて、製品別や地域別といった水平方向からの指揮命令系統を重ねて、2方向から管理統制を行う構造を持っています。

例えば、機能別✕製品別のマトリクス組織であれば、営業部門のメンバーは営業部門のマネージャーと製品マネージャーの双方にレポートライン※を持ち、機能別✕地域別の場合は営業部門のマネージャーと地域マネージャーにレポートラインを持つ形になります。

マトリックス組織の2元的管理は、通常、垂直・水平方向どちらかのマネージャーの権限に優先順位が置かれ、どちらの権限を強くするかは組織の戦略によって異なります。

数多くの製品分野をもちグローバルに事業を展開する多国籍企業などの場合、地域別事業部組織と製品別事業部組織の2軸から形成されるマトリックス組織を持つものもあります。

※レポートライン:指揮命令系統・報告経路・決済経路など、管理統制を行う際に意思疎通が行われる系統

ピラミッド型の組織体制との違い

ピラミッド型組織は組織構造の最も典型的なものとされ、トップマネジメントからの垂直的な管理統制による階層的な指揮命令系統を持つ構造をなしています。

ピラミッド型の組織で多くの製品分野や地域別に対応するのが事業部制組織です。各事業部はその単体ごとに独立した分業機能を持つ形を取ります。

事業部制組織は事業部ごとに同じ機能を持つ部門を重複して持つことになり、経営資源の管理が非効率であること、事業部ごとの利益管理が重視されるためセクショナリズムに陥りやすく、全社的な相乗効果を発揮できないなどのデメリットがあげられます。

マトリックス組織は事業部制のデメリットを解消する効果を持っています。それぞれの機能部門が複数の製品や地域を担当することで全体のバランスに配慮した経営資源の活用を図ることに繋がり、複数の製品群や地域からの情報に晒されることはマーケットの変化に柔軟に対応することを可能にします。

マトリクス組織の歴史

マトリクス組織が1960年代の米国アポロ計画に端を発していることはよく知られています。アポロ計画のなかでNASA(米国航空宇宙局)が政府調達を行う際、調達先となる航空宇宙産業関連の各民間企業に対して、計画のプロジェクトごとに統括責任者を置くことを求めました。

各企業側では、既存の機能別組織に横串を指す形のプロジェクトチームを組成する形となり、それが恒常化し定着したのがマトリクス組織の原型です。

1970年代から80年代にかけてマトリクス組織がブームとなり、業種を問わず多くの企業が導入を進めましたが、DEC(現ヒューレット・パッカード)などの成功例も見られた一方、ほとんどの企業がマトリクス組織の二重の指揮命令系統と権限関係のバランスを取ることができず失敗に終わっています。

1990年代に入り産業構造が世界的に変化していくなかで、ABB(アセア・ブラウン・ボべリ:スイス エンジニアリング大手)のマトリクス組織導入による成果が脚光を浴びると、IBM、ダウコーニング、テキサスインスツルメンツ、スターバックス、ベクテルといったグローバルに事業を展開する大手企業で導入が進みました。

日本では花王、村田製作所、トヨタなどがマトリクス組織を採用する企業として広く紹介されています。

マトリクス組織のメリット

マトリクス組織は垂直・水平2方向から統制管理を行うことで、両者の調整機会を意図的に作り出すことを目的としています。機能部門には負荷がかかりますが、それを克服することでより高度な経営管理を実現できます。

不確実性の高い環境化での柔軟な対応

機能部門は複数の製品分野や地域別のチャネルからの情報を扱うことになり、マーケットサイドの状況を全社的に把握することができます。そのことが事業環境の変化や問題が発生した場合に、迅速かつ柔軟に対応することを可能にします。

イノベーションの創出

各機能部門は部門ごとの最適化を求める圧力と製品や地域それぞれの業績を求める圧力の両方に晒されます。2重の圧力がより高度な問題解決や新たなイノベーションを生むための原動力となる可能性があります。

トップマネジメントの負荷軽減

機能別組織でトップマネジメントが行っていた経営判断を、垂直方向のマネージャーと水平方向のマネージャーの調整の結果に移譲する形となることで、トップの負荷軽減が図れるとともに、より精度の高い経営判断に繋がる可能性が高まります。

マトリクス組織のデメリット

マトリクス組織は2つの指揮命令系統が交錯するため、多様性・複雑性・相互依存性が高い組織構造を形作ります。その結果が生み出すメリットを期待するものである反面、レポートラインの設定や構成メンバーの能力、全体の経営管理能力が不足すると組織の機能不全に陥る可能性が高まります。

1970年代に多くの企業が採用しほとんどが失敗したことはこれらが満たされていなかったことに起因します。

マトリクス組織の運用を成功させるためにはこれらの難しい点について理解しておくことが重要です。

 2重の指揮命令系統による混乱

メンバーは2人の上司を持つことになり、マネージャー側・メンバー側それぞれの権限と責任が明確化されていなければ混乱を招きます。責任の所在があいまいであることは対立の原因を作り組織が機能不全に陥る引き金となります。

2つのレポートラインの関係を整備するとともに、2人のマネージャーの緊密なコミュニケーションと連携が必要とされます。

情報処理負荷の増大による非効率

メンバーは機能部門の垂直的な方向からの要請に加えて、製品別や地域別など水平方向からの要請を調整しながら最適解を探すことになります。

例えば、機能別組織では、企画部門は部門マネージャーの指揮命令により担当製品の企画開発を行いますが、マトリクス組織では部門マネージャーからの指示と製品別や地域別マネージャーからの指示や要請を同時に実現する、または、両者の調整を図りながら業務を遂行することが求められます。

部門のメンバーの調整にかかるコミュニケーションコストと負荷の増大は効率と生産性に影響を与えます。

しかし、一定の効率と生産性を犠牲にした上で、より高いレベルでの問題解決や最適な結果をもたらすバランスを求めていくことがマトリクス組織の目標となります。

摩擦や対立(コンフリクト)を生じやすい

指揮命令系統における権限は組織におけるパワーを示すものであり、権限が大きいほど影響力が大きく、権限を持つことに対するインセンティブが働くことはどんな組織構造でも同じです。

マトリクス組織では2方向の権限が錯綜することになり、対立や摩擦(コンフリクト)が生みやすい構造を持っています。

コンフリクトは対立や摩擦が生じた結果がプラスに働くものとマイナスに働くものに分けられ、マトリクス組織はコンフリクトによるプラスをもたらす結果に期待するものです。

マイナスに働くコンフリクトをなくすために、レポートラインの定義と優先順位を明確にし、マネージャー間のコミュニケーションチャネルや情報共有システムを整備することが必要です。加えて、機能別組織の持つ伝統的な組織文化から建設的な議論を促す組織文化に変えていくことが求められます。

マトリクス組織の導入事例

国内企業のマトリクス組織の導入事例を3社ご紹介します。

事例1:村田製作所株式会社

【マトリクス軸】

・事業部門(コンデンサ・圧電製品・モジュール・その他コンポーネント)
・工程別組織
・機能スタッフ(本社スタッフ、開発、営業など)

上記3つの軸を持つ3次元マトリクス組織と管理会計を結びつけた独自のマトリクス経営を行う。

【マトリクス経営の目的】

製品別と工程別のマトリクスにより経営管理単位を細分化し原価管理を厳格化。単位ごとの月次損益計算により業績管理を行う。

これらの管理会計体系はグローバルで統一され、各部門間で活発な意見交換が行える仕組みを構築。コンフリクトが発生した場合も客観的なデータにより課題を共有し協力して課題解決に当たることのできる組織風土を醸成している。

事例2:花王株式会社

【マトリクス軸】

研究開発部門において、商品開発研究と基盤技術研究の2軸によるマトリクス運営を行っている。

【マトリクス組織の目的】

一つの技術を複数の商品分野に応用展開することや多分野の技術を組み合わせることで、イノベーティブな商品開発に繋げる目的。新たな商品開発のための研究環境としてだけでなく、研究員の技術戦略思考を養成する場としても機能している。

各研究開発部門に知的財産部門からの担当者を置き、技術分野・エリア間の知財連携を図れる取り組みを実施。

事例3:本田技研工業株式会社

【マトリクス軸】

日本を含む7つの地域と事業・機能をかけ合わせる2軸のマトリクス組織を運営。

・地域(日本、北米、南米、欧州、アジア・太平州、中国、アフリカ・中東)
・事業(二輪事業、四輪事業、ライフクリエーション事業)
・機能(ブランドコミュニケーション、事業管理、人事、コーポレートガバナンス、IT、生産、購買、カスタマーサポート)

【マトリクス組織の目的】

各地域に根ざした事業展開を進めるとともに、中長期計画での製品別展開を図りながら地域別の連携・調整を行っている。事業の軸に機能を含めることで、グループ全体での効率化とシナジー効果の創出、全社的な支援・調整を実施。

まとめ

ビジネス環境が大きく変化する時代のなかで、企業にはマーケットへの柔軟な対応とより高度な経営判断が求められます。それを可能にする一つの組織のあり方がマトリクス組織ということができます。

マトリクス組織は構造をだけを導入しても機能させることが難しい組織形態であることを認識し、メリットを活かすための綿密な制度設計と組織風土の変革を同時に検討していくことが重要です。

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