サクセッションプランとは?人材育成との違い・目的・事例を紹介

母集団形成

経営トップの交代は企業の将来に大きなインパクトを与える重大な意思決定です。後継者の育成を計画的に行うサクセッションプランは、企業の継続性を保ち、企業価値を向上させていくための施策であり、今後さらに取り入れる企業が増えていくと考えられます。

サクセッションプランについて、人材育成との違いや、もたらされる効果、導入方法など、事例を加えてご紹介します。

目次

サクセッションプランとは?
サクセッションプランと人材育成との違い
サクセッションプランのメリット・デメリット
サクセッションプランの導入方法
サクセッションプランの導入事例
まとめ

サクセッションプランとは?

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サクセションプランとは、経営トップをはじめとする幹部候補となる人材を育成し、交代の時期に備えて候補者として一定数確保しておくための施策・プログラムを指します。

米ゼネラル・エレクトリック(GE)社のCEOがジャック・ウェルチ氏であった時代に、サクセッションプランを用いて後任者の選任を行ったことをきっかけとして、企業の承継プロセスのベンチマークとして広く知られるようになった言葉です。

リーダーとなる人材の要件を定めて候補となる人材をリストアップし、幹部候補としての指導・育成の機会を何段階かにわたって設けます。それをもとに、長い時間をかけて対象候補の評価・選抜・入れ替えを繰り返しながら候補者を絞り込んでいくという取り組みがサクセッションプランの概要です。

事業の後継者を育成する施策全般を指す

当初、サクセッションプランは経営トップの後継者の育成計画や、リーダーとしての要件を見極めるための方法論といった面がクローズアップされていました。

しかし、近年では、企業の持続的な成長と企業価値の向上という観点から、適任ではない人材の重要ポスト登用の回避、また、後任者が決まらない状態が続いてしまうといった企業統治におけるリスクを回避するための手段という捉え方に変わってきています。

したがって、事業継続や企業価値向上に大きな役割を果たす重要度の高いポジションであれば、サクセッションプランの対象は社長・CEOに限られるものではなく、引き継ぐポストに紐付けずに優れた人材を確保しておくといった方法もとられています。

経営者候補となる人材の層を厚くしておくことは、長期を見据えた企業価値向上に結びつきます。

すべての企業に適用できる施策ではない

サクセッションプランは内部登用を前提としたものであり、豊富な人材を社内に有するという点から、多くは上場企業や規模の大きな会社を対象として適用されるものです。

しかし、大企業であっても自社内で後継者を育成するというサクセッションプランの仕組みがそぐわない以下のようなケースも考えられます。

● 上場子会社で、幹部人材の選定が親会社の意向で決定される、または、親会社から派遣される。
● 経営に対する創業家の支配力が強く、創業一族から経営陣を排出することが慣例となっている。
● 能力と手腕を持つカリスマ経営者に依存した経営が行われおり、後継者選定が視野に入りにくい。

サクセッションプランを策定することが現実的ではない、または、策定しても機能しにくいといった、それぞれの企業の背景や事情が存在します。その場合でも、最適なタイミングでふさわしい後継者にバトンタッチするための現実的な対策について議論しておくことが望まれます。

後継者不足が深刻化する中小企業の事業承継

社会情勢の変化としてさまざまな問題を引き起こしているのが少子高齢化の影響です。日本の会社の99%以上を占める中小企業において後継者不足はより深刻であり、帝国データバンクの「全国企業「後継者不在率」動向調査(2020年)」によると、国内企業の65.1%で後継者が不在であるという結果が出ています。

すべてが少子高齢化を要因とするものではないにしろ、現経営者の高齢化と労働力人口の減少により次世代の経営者候補の母数が減少していることは、中小企業の事業承継に確実に影響しており、今後さらに深刻化していくと考えられます。

事業存続に関わる社会的な影響、あるいは、中小企業で実際に行われている事業承継の形態から考えると、中小企業の後継者育成、後継者選びは大企業のサクセッションプランとは異なります。

しかし、後継者不足に悩む中小企業の少なくない割合が、安定した業績を保ちながら、現経営者も存続を望むケースが多いことを考えると、中小企業経営者もサクセッションプランについての知見を持つことが役に立つと考えられます。

サクセッションプランと人材育成との違い

サクセッションプランは、社長・CEOをはじめとする、経営に関わる重要ポストの候補者を育成・選抜するための取り組みです。対して、人材育成は企業業績に貢献する人材を指導・教育・育成することを指すもので、それぞれの目的が異なります。

経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」のなかで、育成の方法としてあげられる一例と企業事例のなかで紹介される具体例には下のようなものがあります。

● 全社視点・グループ全体視点のマネジメントを経験するための事業部門を超えたローテーション
● 不振事業の立て直しや、新規部門の立ち上げなど、修羅場を乗り越える経験をさせるためのタフ・アサインメント
● 経営上層部との1on1面談
● 幹部候補を対象として実施される経営塾
● 外部専門家によるコーチング
● MBAのスキルや経営知識習得のための研修

それに対し、人材育成は職務等級や職能資格に応じたそれぞれのスキルを習得するため
にOJT(現任訓練)とOff-JT(職場外研修)といった教育機会を設けて育成が行われます。

必然的に、サクセッションプランは数年といった単位の期間で行われるのに対し、人材育成は一定のスキルレベルに達するまでに要する期間となるので短いスパンで行われます。

サクセッションプランと人材育成プログラムをそれぞれ独立するものとしてではなく、優秀な人材を選抜していく過程として、段階とより長い期間を設定しながら統合する形で運用するケースも見られます。

サクセッションプランのメリット・デメリット

サクセッションプランのメリットとデメリットには以下のようなものがあげられます。

メリット1:後継者不在のリスクヘッジになる

サクセッションプランを運用し後継者候補を準備しておくことで、スムーズな幹部ポストの交代が可能となります。

また、業績の著しい低下や全社的な不祥事、病気や死亡といった個人的な事情で、重要ポストの交代・後継者指名の手続きが必要となることも想定されます。このような場合に備えて、重要ポストの代行者や後継者を決めておくことはエマージェンシープランと呼ばれ、サクセッションプランと合わせて検討されます。

メリット2:有能な人材のリテンション

サクセッションプランは後継者候補のリストアップという明確な目的をもつ、優秀な人材を発掘するための仕組みとして機能し、能力のある社員が埋もれてしまう前にケアを施すことが可能になります。

また、候補対象となった社員には将来のビジョンを提示することになるため、健全な競争を促し、モチベーションの向上や会社に対するエンゲージメントを高める効果ももたらします。

メリット3:ステークホルダーに対する指名・選任プロセスの透明化

企業のトップにあたる人材の去就は企業価値に影響する、ステークホルダーにとって重要な問題と位置づけられます。サクセッションプランを外部に向けて情報発信することは指名・選任の透明性を高め、コーポレート・ガバナンスにプラスの効果を果たします。

デメリット:長期にわたる点と社内配慮が必要

数年単位の長い時間をかけて、選考・評価・選抜を繰り返すのがサクセッションプランです。

環境変化にも対応しながら一貫性をもった計画である必要があり、取締役会や指名委員会など関係主体の関与の仕方やどこまでオープンにすべきかといった細かい配慮が必要な場面も出てきます。

選考にもれた役職員のモチベーションへの影響や社内の雰囲気にも注意して計画を進めることが求められます。

サクセッションプランの導入方法

導入にあたり、計画策定の手順や方法、運用の具体的な取り組みは、それぞれの企業が置かれる外部環境や企業文化・風土、組織体制などによって必然的に異なります。

STEP1:経営戦略と組織の将来像を明確化する

中長期の経営戦略・経営計画を前提に承継後も踏まえた企業ビジョン、将来像を明確にします。現トップの任期と再任されたケースも含めて、トップ交代までのロードマップを複数検討します。

STEP2:候補者を選定する

STEP1で明確にした自社の経営理念や経営戦略に整合する能力・資質、経営者としてのスキルを持った、組織の将来像を担うにふさわしい人物としての要件を定め、後継者像を明確にします。

合わせて、候補者を「誰が、どの段階で、何人選出するか」といった候補者選定のための計画と候補者の選抜タイミングや評価基準・方法を明確にします。

STEP3:育成計画を策定する

STEP2で定めた要件に対して、候補者としてあげられた人物に不足する要素を検証し、それを補完するための育成方法を計画します。

STEP4:育成を開始する

育成方法の具体的な例を前述しましたが、ポストのローテーションやタフ・アサインメントに限らず、自社の経営トップとして必要な経験を積ませるという点で特定のポジションに就かせるといったことが多く行われています。

サクセッションプランの導入事例

導入方法で述べたとおり、サクセッションプランはそれぞれの企業にあった方法が取られるべきものであり、ベストプラクティスは存在しません。現在のトップを中心に必要な関係者と十分な議論を行った上で策定することが必要です。

サクセッションプランの事例として、経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」にあげられた事例の中からいくつかをご紹介します。

事例1:C社

(サクセッションプランの目的)
● 変化の激しい経営環境のなかで、新しい事業を創出できる人材が生き残りのために必須

(プロセス等)
● 執行側が選出した10名の候補者に、社外取締役の個別面談、個別コーチング、グループ面談を実施し候補者を評価
● 外部専門家による第三者評価とコーチングによる成長を踏まえた評価を実施
● いつまでに何をするかといったことは会社としては決めていない。3~5年後をめどに候補者を交代可能な状態にしたいという考え

(育成)
● 次世代経営者リーダー候補に対してタフ・アサインメントを実施
● 会社の業績にインパクトのあるポジションを特定、候補者となり得る人材を数百名選出し育成プログラムを実施
● 育成プログラムが後継者計画のバックグラウンドを支える仕組みとして機能している

事例2:D社

(サクセッションプランの対象)
● 経営トップに加えて、カンパニー長や中核子会社の経営トップも対象に加えている

(プロセス等)
● 社長後継者候補に対して、360度評価や外部専門家による第三者評価・質疑応答を実施
● 後継者計画について基本的考え方等を文書化して公表

(育成)
● 社長後継者候補については、経営者としての資質が鍛えられるポストに就けている
● 執行役員より下位の人材を対象に、次世代の経営リーダーを早期に発掘。10年スパンで戦略的・計画的な育成プログラムを実施
● 3つの階層に分けた候補者に対して、アセスメント・フィードバック→リーダーシップ研修・コーチング→戦略的アサインメント→評価→再選定・入れ替えというサイクルを繰り返している

事例3:E社

(サクセッションプランの対象)
● 経営トップに加え、役員及び役員候補も対象としている
● 中核子会社の役員も含めてグループとして後継者計画を策定している

(プロセス等)
● 社長がグループ各社のトップから状況を聴取、これを踏まえグループ全体の後継者計画を取りまとめ、指名委員会に諮問

(育成)
● 育成プロセスでは、主に研修を実施、毎年、部店長クラスの20名に対し、経営トップが参画する経営塾を開講。著名経営者の講演、経営管理の知識習得、外部講師によるリーダーシップ研修やワークショップを実施

 まとめ

サクセッションプランの取り組みは上場企業や組織規模の大きな会社を対象とすることが一般的です。しかし、サクセッションプランの中身は、経営トップの交代をスムーズに行い企業を継続させるための方法にほかなりません。

この点では中小企業であっても自社にふさわしい独自のサクセッションプランがあって然るべきでしょう。

人事に関わる制度に手を入れることは容易いことではありませんが、事業環境が目まぐるしく変わっていき、先を見通すことの難しい時代のなかで、最も重要な経営資源である「ヒト」を最大限に活かすためのサクセッションプランは多くの企業にメリットをもたらします。

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